いつも思うLB

出遅れLファンの雑記帳です。Bも一緒に愛しています。最初にカテゴリーの「ごあいさつ」をご覧下さい。
Posted by 若子   0 comments   0 trackback

「彼は何でも知っている」

短編なんですが、実はだいぶ前に「Lと過ごす日々」の夜崎隊長にさしあげた話です。
ほとぼりが冷めたので(何じゃそりゃ^^;)、こちらにも載せることにしました。
今日は、何かしないでは居られない日ですしね。
ではどうぞ。
 
 
 
 

「まただ……」
 低い呟きを聞きとがめたワタリが、ティーカップを持った手を一瞬止めた。が、すぐ何事もなかったかのように、カップをさり気なく私の手元に置く。
 キラと呼ばれている何者かが関わっていると思われる、不可解な連続不審死。凶悪犯ばかりが心臓麻痺で死亡していることから、当初はそれなりに規模の大きい犯罪組織が裏で動いている可能性を疑ったが、もしそうであれば、その具体的な動きが未だ私の耳に入らないということは有り得ない。
 今まで扱った幾多の事件の中で読み解いてきた、個人及び集団が展開してきたような犯罪のパターンからも、微妙なズレがあった。
 「犯人」側が得る「利益」が見出せないのだ。
 大きな集団が、具体的な目的を持たぬまま、統一された意志の下に動くことは、まず考えられない。だとすれば、特殊な教義を持つ宗教的集団か、あるいは本人にしか分からない意図を持った個人の行為か。
 先に言ったように、集団が動いているなら、その情報はとうに私に届いているはずだ。故に、この事件は個人の手によるものと考えるのが、もっとも妥当なところだろう。
 一握り角砂糖を入れた紅茶を口に運ぶ。ついでにチョコレートも二粒。
 これは私の血、私の肉。そんな言葉が意味もなく浮かんで、そして消えた。
 誰が、何のために、どうやって。
 そう、おそらくは個人。目的も予想がつく。だから問題はただ一つ。
 「実行手段」だ。

 この事件を捜査ファイルに加えて間もなく、犯人に共感する連中が次々とサイトを立ち上げ始めた。近年はこういった傾向が著しい。今までは一般人のサイトから得るものは殆どなかったが、今回は少しばかり様子が違う。この連続殺人犯に対して、ネット上で呼び掛けたり、殺して欲しい相手の顔や名前を晒すという行為が凄まじい勢いで増加しているのだ。現に何例か、その中から選ばれたとおぼしき犠牲者も出ている。
 無数の情報を手繰りながら、世界に張り巡らされた電子の糸の上を這い回り、次の獲物を選ぶ、禍禍しいクモのような存在。それは、100%に近い確率で日本にいる。
 この私のように、一人、モニターと向き合って。
 キラの足跡を見つけ出すべく、私は念のために個人のサイトも次々と渡り歩いた。だがやはり収穫はない。

 その言葉を初めて目にしたのは、1週間ほどあちこちのサイトを覗いた頃だった。最初は気にも留めなかったが、それを目にする機会は徐々に増え、その言葉が現れたサイトは決まって異様な盛り上がりを見せていた。
 私は確かにかなりの数の言語に精通し、相当数の言語に対応できるが、それでも正直に言えば、得手不得手はもちろんある。ひらがな、かたかな、漢字、アルファベット、さまざまな記号などが入り混じったこの日本語という言葉は、話すのはともかく、書くとなるとけっこう煩わしく、略語や和製英語といったものも多いせいで、読むにもずいぶんと労力を要するのだ。
 もっと母国語を大切にしろ。
 少しばかり八つ当たりに近い気分は、ワタリの用意してくれたシフォンケーキのおかげで和らいだ。象牙色のスポンジの中にストロベリー味の部分が芸術的に渦を巻いたケーキを、満足げに口に運ぶ私を見て、ワタリは穏やかな笑みを浮かべている。
 その笑顔が、まるで孫を見守る祖父のようにも見えて、それで私は、つい問い掛けてしまったのだ。
「ワタリ」
「はい?」
「最近この……日本のサイトでよく見かける言葉なんだが……」
「日本のサイトで?」
「おまえは聞いたことがあるか?」
「なんという言葉でしょう」
 歩み寄ってくるワタリに、ケーキをもう一口頬張りながら続ける。
「キリ番、というんだ」

 ああ、この微かな酸味がなんとも言えない……。
 思わず陶酔しかけた私は、その違和感に気づくのが少々遅れた。
「ワタリ?」
 首を捻って 見上げると、ワタリがピクリと反応した。
「どうした」
「あ……いえ、なんでもありません」
「本当か?」
「はい。それよりL、今の『キリ番』ですが……」
 ワタリはそう言いながら画面をスクロールすると、モニター右隅の一点を指差した。
「ここのカウンター。これが5000とか10000とか、キリのいい番号になったものを、そう呼ぶようです」
「キリのいい……番号」
「はい」
「それで……キリ番」
「そうです。同じ数字の並ぶ『ゾロ目』や、左右対称に数字の並ぶ『ミラー番』といったものを喜ぶ場合もあるようです」
 ケーキにフォークを突き刺したままの姿勢で、私はこの時すべてを理解していた。
 なんてことだ。私としたことが、こんな簡単なことに気づけなかったとは。
「紅茶のおかわりを持って参りましょう」
 少しばかり動揺している私に立ち直る時間を与えるかのように、半分以上紅茶の残ったカップを持ってワタリが下がって行く。
 カウンター……。なるほど、盲点だった。
 いや無論、カウンターのことは知っていたが、記事の内容に注意を払ってはいたものの、よもやその数字の並びでこんなにサイトが盛り上がるものだとは……。
 そもそも「キリ番」の示す意味は彼らの間では今更のものらしく、これといった説明もなされていなかったため…………

 待てよ。

 そんなものを、なぜワタリは知っていたのだ?
 ゾロ目?
 ミラー番??

 なんだそれは ワ タ リ !!



 耐熱ガラスのティーポットの中で、リーフがリズミカルに舞うのを見つめながら、ワタリは先刻のLの様子を思い返していた。この頃はもう滅多に見られなくなった、微かなうろたえを滲ませた横顔に、幼い頃の面影が甦る。
 もっとも、うっかり可愛いなどと言えば、当分はヘソを曲げられてしまうだろうが。

 「キラ」を追うことにかなりのエネルギーを傾けているL。だから私は彼の代わりに、いくつもの「L」のファンサイトをチェックしているのだ。もしかしたら「キラ」に関する事柄が書き込まれるかもしれないから。
 L。あなたは知らないのでしょうが、あなたの人気は相当なものなのですよ。あちこちのサイトで次々と新たなキリ番が「踏まれる」くらいにね。おかげで私も、妙な専門用語にすっかり詳しくなりました。

 ほどよい色合いになって、馥郁たる香りを辺りに漂わせる紅茶を、温めたカップに注ぎながら、ワタリはひっそりと微笑んだ。
 新たなスイーツも補充し、それらを乗せた銀のトレーを両手で持って、つま先の向きを変える。
 これから戻るその部屋で、自分を問い詰めるべく、Lが手ぐすねを引いて待ち構えていることに、今はまだ気づかないまま。


    終わり

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