いつも思うLB

出遅れLファンの雑記帳です。Bも一緒に愛しています。最初にカテゴリーの「ごあいさつ」をご覧下さい。
Posted by 若子   2 comments

「写真」

やっと仕上がりました。記念すべき第一作(笑)です。
少し長いけど、よろしかったらご覧ください。
 
 
 
 その日の午後のティータイム。キラ捜査本部の面々は、テーブルに並んだ豪華なスウィーツの数々を前に固まっていた。何を血迷ったものか、イチゴがどっさり乗った直径30センチほどのホールケーキまで用意されている。
 これを、まさか竜崎、一人で……。

「そんなわけないでしょう」
 不意をつかれた全員が音のしそうな勢いで振り返る。
 視線の先に猫背の名探偵が立っていた。彼と鎖でつながれた青年も、所在無さげに並んでいる。
「……皆さんが何を考えていたかは分かります。ですが、あいにくそれは私一人の分ではありません」
「じゃ、誰の……」
 表情に期待を滲ませながら松田が問う。

「模木さんですよ」

 全員の視線が、今度は模木に集中した。がっしりした体格の彼が、まるで子供のように目を丸くする。
「え、竜崎、まさか……」
「今日はお誕生日ですね模木さん。おめでとうございます」
 皆が口を開けて、竜崎と模木を交互に見やった。
「皆さんとお会いしてから、誕生日を迎えた方が何人かいらっしゃったようですが、捜査の関係でのんびりと祝える状況にありませんでした。現在は幸か不幸か捜査も手詰まりの状態ですので、気分転換も兼ねて、少しばかり賑やかにお茶の時間を過ごすのもいいのではないかと思いまして」
 聞きようによっては失礼とも取れる言い草ではあったが、竜崎なりに考えた上での、それも好意からのものには違いない。何より当の模木本人が、感激の面持ちで直立不動の姿勢を崩さずにいるのだから、竜崎の『心遣い』は成功したと言ってもいいだろう。
「そ、そうか。模木、おめでとう」
「恐縮です」
「竜崎、まさかこれ、模木さんと竜崎だけで……」
 松田の言葉にふるふるとかぶりを振る模木を見て、竜崎はのどの奥で笑った。
「いいえ、全員の分です」
 安堵と共に、辺りの空気が幾分浮き立った。皆それに気づいたのだろう、照れくさそうな笑みを浮かべながら、互いに顔を見合わせている。
「で、ケーキだけというのもなんですから……」
 模木の様子を横目で伺いながら、竜崎は続けた。
「模木さんは料理がお好きだそうですね。何か道具をとも思ったのですが、使い勝手もあるでしょうし、きっともう一通りはお持ちでしょう。もし他にご希望のものがあれば、それをプレゼントさせていただきます」
 模木の表情が微かに変わったのを、竜崎は見逃さなかった。
「模木さん、どうぞご遠慮なく」
「いいなぁ模木さん。ぼくの誕生日はまだまだ先だからなぁ」
「おまえ、もう何かもらう気でいるのか!」
 相沢に睨まれた松田が首をすくめた。そのやり取りをきれいに無視しつつ、竜崎は模木を促すように軽く首を傾げて見せる。
 模木は大きく深呼吸をした。
「お気遣いいただいて、ありがとうございます、竜崎。ですが、必要なものは自分で買います」
 ほぼ予想通りの返事だった。
「……そうでしょうね」
「ですから……もし良ければ」
 続けられた言葉に、竜崎はふわりと身を乗り出した。
「なんなりと」

「竜崎。自分と、写真を撮ってもらえませんか」

 たとえば家を建ててくれと言われる方が、これほどの困惑は覚えずに済んだに違いない。写真とは、よりによって最大の禁忌ではないか。
 模木ほど優秀な人物が、なぜこんな要求を……。
「模木さん、それは……」
「分かっています。撮った写真を見たら、すぐに処分します」
「処分?」
「はい。写真が欲しいのではありません。あなたと一緒に写真を撮ったという事実を、思い出としてプレゼントにいただきたいんです」
 強張っていた室内の空気が、ようやく和らいだ。
「そう……いうことですか」
「ポラロイドなら、撮影も処分も簡単です。カメラはあなたが用意して下されば、細工の心配もありません。どうでしょう竜崎」
 考えるように、親指と人差し指で下唇を弄んでいた竜崎は、数秒後に頷いた。
「分かりました。すぐにカメラを持って来させましょう」
 その言葉が、そのまま指示となる。5分後、届けられたカメラとフィルムパックをドア越しに夜神総一郎が受け取り、竜崎の元に持って来た。
「ありがとうございます」
 カメラを受け取った竜崎はすぐにファインダーを覗き込み、レンズを模木に向けてニヤリと笑った。手馴れた様子でフィルムパックを装填し、そのカメラを相沢に差し出す。
「お願いします相沢さん」
「おう」
「じゃ、模木さん、こちらへ」
 自分の傍らに模木を呼び寄せ、竜崎は椅子の上で正面を向いた。
「ああ、だめですよ竜崎、そのままじゃ」
「え?」
 言うなり寄って来た松田が、いつもの姿勢でいる竜崎の両足を抱え込もうとした。次の瞬間、誰もの予想通りに松田は蹴り飛ばされていた。
「ひ、ひどい……竜崎……」
「いきなり妙な真似をするからです!」
「だって……誕生日の記念写真なのに、その姿勢じゃ……」
 もそもそと起き上がりながら松田が言う。
「なるほどな。ここは珍しく松田の言うことが正しいぞ竜崎。今だけでも椅子から足を下ろして、きちんと揃えるべきだな」
「でも、私はこの姿勢でないと」
「今は別に、推理力は必要ないじゃないか」
 気を使って鎖の長さぎりぎりまで離れていた月も、相沢の言葉を後押しする。
「みんなの言うとおりだ。竜崎、少しの間だけ模木のために辛抱してくれないか」
 総一郎からも頼まれてしまった。口を挟まないところを見ると、模木も同感なのだろう。確かに、プレゼントなら当人の意向が最優先されるべきだ。
「……分かりました」
 竜崎は折れた。ためらいがちに足を下ろし、うつむき加減のまま、相沢の手の中のカメラを見る。
「おいおい、そう睨むなよ」
「睨んでなんかいません」
「目つきが悪すぎる。もっと顔を上げて。口がへの字になってるぞ。ちゃんと笑って」
「相沢さん、楽しんでますね……」
 否定の言葉は返ってこなかった。
「あの、竜崎、ご迷惑ならやっぱり……」
「いいえ、そんなことはありません模木さん。たかが写真じゃないですか。さあ撮りましょう。どんな写真になるか私も楽しみです。その位置でいいですか相沢さん。逆光になっていませんか。月くん、気になるのでもうちょっとそっちに行ってて下さい」
 淡々とまくし立てる竜崎に気圧されながら、全員が細かく移動する。
「よし。じゃあ、撮るぞ」
「いつでもどうぞ」
 その言葉と同時に、フラッシュが光った。
 小さな音を立てて、写真が吐き出されてくる。
「……目を、つぶってしまったかもしれません……」
 竜崎が、ぼそりと呟いた。

 その心配は杞憂に終わった。浮かび上がってくる画像の中で、竜崎は普通に目を開けていた。両足を揃えて椅子に腰掛け、両手を膝の上に乗せ、その右側に背筋を伸ばした模木が立つ。
 ただそれだけの平凡な写真なのに、なぜ、こんなに笑いがこみ上げてくるのだろう……。
「かしこまっちゃって。なんだか昔の夫婦の写真みたいッスね!」
 松田が言い放った瞬間、竜崎以外の全員が同時に吹き出した。
「ようし、じゃあ次、局長、竜崎と並んで!」
「何を言ってるんだ相沢」
「いいじゃないですか。どうせ処分するんだ。フィルムも使い切った方がむしろ安心ですよ、なあ竜崎。おい松田、そっちのケーキ持って来い。みんなで食いながら撮ろうぜ」
「あっ、だめですよ松田さん、それは模木さんの分です」
「竜崎、この黄色いのは何かね?」
「それはパンプキンモンブランです。私のお気に入りなんです」
「竜崎、このケーキお酒の匂いがする……」
「あ、それ、月くんは未成年だから食べちゃいけません」
 パシャ、と閃光が走った。
「相沢さん、撮るならそう言ってください!」
「うわぁ甘い!」
「だからそれは模木さんのだって」
「竜崎、自分は甘さ控え目の方が」
「えぇ? そんなの用意してませんよ!」
「父さん、これ抹茶味みたいだよ」
 三度目のフラッシュが閃く。
「分かりました、もうどれを食べても結構です!」
 やけ気味の声にかぶさって、笑い混じりの歓声が上がった。



 深夜。カメラと共に、撮った写真を全部持って、Lはワタリの居室を訪れた。テーブルの上に写真を放り、こちらに向けられたままの背中に声を掛ける。
「処分しておいてくれ」
「昼間はずいぶんと盛り上がっていましたね」
「……そうだな」
 ワタリの前のモニターには、ベッドに手錠で繋がれたまま熟睡している夜神月の映像が、大きく映し出されていた。怪しいそぶりは見られない。
 ワタリはテーブルに向き直り、散らばった写真を揃え始めた。
「あなたは写真を撮ることが好きだった」
「ああ」
「今もそうでしょう?」
「嫌いではない」
 答えながら、その目がモニターの中の夜神月から逸らされることはない。
「一時期……そう、15歳の頃、あなたはピンホールカメラに興味を持っていましたね。覚えていますか?」
「ああ、もちろん」
「当時の写真を、実はまだとってあるのですよ」
 その時になってようやく、Lの視線はワタリを捉えた。
「今、なんと言った……?」
 緊張を含んだ声に、ワタリは笑った。
「心配は要りません。みな風景写真ばかりです。ハウスの子供たちが撮ったことにすれば、あなたに繋がることはない」
 風景写真。確かにそうだった。ピンホールカメラでは、動くものはきれいに残せない。Lはそっと息をついた。
「驚かすな」
「すみません」
 その声は、やっぱり笑っていた。

 シュレッダーに投入される写真は、3ミリ角のピースとなって吐き出され、朝になれば、念を入れての焼却処分に回される。そうやって物は消えても、皆で眺めた幾枚もの写真が、忘れるということの出来ないLの脳裏から消え去ることはない。
 ワタリはそれを、Lのために喜んでいた。
「L」
「ん?」
「この事件を解決したら、イギリスに戻って、もう一度あの写真を眺めましょう」
「そうだな」
「早く、そういう時が来るといいですね」
「ああ。きっともうすぐだ」
「そう願っています」
 二人は顔を見合わせ、約束のように笑みを交わした。


*****


 著名な発明家にしてワイミーズハウスの創始者、キルシュ・ワイミー。
 彼のものした多くの発明に関する膨大な資料は今、彼の身内の手によって保管されている。
 許可を得てそれらの資料を紐解く者は、彼の発明のタイトルが並んだ幾つものファイルの中に、小さく数字が打たれた一冊のファイルを見つけるだろう。
 <File No.15>。
 だが、意味ありげなそのファイルを開いてみても、中にあるのはただの風景写真だ。
 いつ、誰が、どこで撮ったとも知れない、素朴な写真の数々。キルシュの身内に尋ねても、写真の撮影者を答えられる者はいない。


 最後のページに、その一枚は残されている。
 緩やかにカーブを描く灰色の道の上に伸びた、カメラを構えて立つ人物の影。
 まだ狭い肩幅。曲げられた尖った肘。頼りなげに細い脚。それは間違いなく、年若い人間のものだ。

 記憶の中の光景にそっと明かりを灯したような、輪郭の滲んだモノクロの写真。それはそのまま、写真を撮った人物の視線と立ち位置に重なり、まるで自分の思い出のように、見る者の心に刻み込まれていく。
 そしていつか、不思議な懐かしさとともに、彼らはこのひとときのことを思い出すだろう。



 キルシュ・ワイミーが心から愛しんだ少年の撮った写真は、今も彼の身内の元で、ひっそりと眠っている。
 花に埋もれ、流れに足を浸し、落ち葉を踏み、髪に雪を積もらせながらカメラを持って歩いた少年の、尽きることのない好奇心と喜びと、その時確かにそこにいた彼の時間とを、たくさんの小さな印画紙の上に、永遠に焼きつけて。



 2008.1.2 「写真」   -了-

Comment

夜崎 says... ""
明けましておめでとうございます。本年も、L好き同志として、そしてL萌え作品創作者として、よろしくお願い申し上げます。
小説完成、おめでとうございます~~~!!!!!
こ、こ、これが若子さんの作品…!!なんて完成度の高い!!まるで、本当のLの過去の物語を紐解いているようでした。「写真」というテーマはLにとって禁忌であるにもかかわらず、あえてそれを選び、Lの趣味であったとする発想は、とても若子さんらしいと思いました。素晴らしいです!!

模木さんのお誕生会(忘れてたよモッチーごめんよ…)を捜査本部でわいわいするなんて、和やかでいいですねぇ。それぞれのキャラクターがいきいきとしていて。ちゃんと楽しんでくれていて。Lが、たとえ贈り物と言えど写真を撮ることを許したのは、きっと捜査本部の仲間をそれほど信頼していたからなんでしょうね。
若子さんはどちらかと言えば捜査本部の人間を怒っていらした方なのに、このお話を読んだらとてもそうだとは思えなくなりました。Lのため、なんですね。
キチーン、シャキーン!として写真に写るLとモッチーが可愛すぎます♪しかも、ちゃんと脚も手も揃えてだなんて、Lってばやればできるんじゃ~ん♪

そして、何と言ってもワタリとの会話、さらにラストの展開!<File No.15>をこう持ってくるとは…!!Lは写っていないけど、そこにはLの足跡がある。人生で一度しかない、若葉の頃のような思い出の跡が、そこには愛する者の手によってちゃんと残されている…。胸が熱くなりました。それはきっと、どんな事件解決の記録よりも、Lという人物を遺す記録なのでしょう。Lの写真集もいいけど、こっちの記録の方が私は欲しいです(笑)
写真を撮るのが好きだったL。二度とは帰らぬ、子供の頃の懐かしい思い出。春も夏も秋も冬も、愛用のカメラと共にあちこち歩き回った…。
情景がぐーんと広がり、見えました。ワタリの視線でも、Lの視線でも。
若子さん、とても素敵なお話を、ありがとうございました!!

私も写真が大好きで、お気に入りのカメラはないけれど、ちょくちょく撮ったりしてます☆Lと同じように、自分の影を撮ったこともあります(笑)あれ、いいですよね♪
Lのことが、うんと身近に感じられちゃいました。若子さん、大好きe-415
2008.01.02 15:20 | URL | #zBBu8OnI [edit]
若子 says... ""
v-457明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!

わあい、感想ありがとうございます! お楽しみいただけました? 書いて良かった!
夜崎さんの感想を読ませていただいてるうち、涙出てきちゃいましたよ。伝えたかったことをしっかり受け取っていただけて……。参ったなもー^^;。
いやー、なんだか、書けば書くほど書き込みたくなって困りました……。どんだけLが好きなんだ自分(泣笑)。
原作Lはものすごく人間らしいので、いくらでも掘り下げられます。

以前、ニナミカさんのL写真集はワタリの遺したファイルという形をとっているって公式のニュースで読んで、早く見たい!と思う一方、ワタリがL本人の写真を残すってことはないよなぁって、どうも引っ掛かってたんです。それで、残せるとしたら本人を特定できない写真だろう、Lが使っていたものとか、行った場所とか……と考えているうち、ふと、L自身が撮った写真なら、本人は写らないけど、一番の思い出になるなって思いついて。v-212
で、これをLの趣味に仕立てて「考証のようなもの」か「私的『L』像」でチラリと書いてたんです。どっちでだったかな。
だから最初は、Lの写真の思い出だけを、独立した話にまとめるつもりでした。
そしたら、いつの間にか模木さんが絡んできてびっくりです(笑)。

以前いた職場で、伊達政宗の遺品を眺めていた時、自作の和歌を推敲した跡のある書を覗き込みながら、「ああ、あの人は昔、今の私と同じ位置で、これを見下ろしていたんだな」って思って、伊達政宗という人をすごく生々しく感じたんですよ。いつか、その感覚を話の中で書いてみたいと思っていたので、今回Lの話で実現できて嬉しかったです。

私も写真が大好きです。撮られるより撮る方が好き。自分の影を撮ったこともあるし、振り向いて自分の足跡を撮ったこともあります。
旅行先のニューメキシコで、ナヴァホインディアンの聖地「ウィンドウロック」を訪ねた帰り道でした。何だか離れ難くて^^;。
ああ、Lを連れて行きたいな。

また何か話を思いついたら書きますので、どうぞ読みに来て下さいねー。
ありがとうございました。私も大好きよ隊長! 受け取って! ちゅっv-207
2008.01.03 01:30 | URL | #sZs0QYOw [edit]

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